COVID-19感染後後遺症

 COVID-19201912月中華人民共和国湖北省武漢市において初めて確認されて以降、国際的に感染が拡大し、世界保健機関は世界的大流行(パンデミック)を宣言した。日本は同年21日に指定感染症および検疫感染症に指定した。

  

COVID-19は潜伏期間が114日で、発症患者のみならず、発症前や無症候病原体保有者でも他人を感染させる可能性があり、発熱や呼吸器症状、全身倦怠感等のかぜ様症状が約1週間持続することなどが特徴である。発症者の多くは軽症だが、一部は呼吸困難等の症状が現れ、肺炎を呈し、高齢者や基礎疾患(慢性閉塞性肺疾患、慢性腎疾患、糖尿病、高血圧、心血管疾患、肥満、がんなど)等を有する者は重症化する可能性が高くなる。

新型コロナウイルスの主な感染経路は飛沫や接触感染で、感染拡大防止の為、身体的距離の確保、マスク着用、換気、密閉・密接・密集の回避、手洗いの励行など「新しい生活様式」の実践、感染者の早期探知、封じ込めが重要である。

 

今までの東京都の経過を見ると202012月~20213月は従来株による第3波、20213月~20216月はアルファ株による第4波、20216月~9月はデルタ株による第5波、20221月からオミクロン株による第6波が現在進行中である。第6波はピークアウトしたと思われるがBA.2系統のウイルス感染増加による第7波も懸念されている。(202241日現在)

 

頻度の高い症状として鼻汁、頭痛、倦怠感、くしゃみ、咽頭痛などのいわゆるかぜ症候群、インフルエンザにおける非特異的な症状が報告されているが、症状の出現頻度においては流行株による差があることが報告されている。アルファ株と比較してデルタ株は嗅覚・味覚障害が少なく疲労感や眠気とは異なる強いだるさ、Brain fogと表現される、集中できない、記憶力の低下などの症状が多い傾向がある。PCRでウイルスが検出されなくなった後も数か月以上に及ぶ多彩な罹患後症状が続く場合もあり、これらはCOVID-19感染後後遺症として報告されており、Long COVID(LC)、コロナ後症候群(post-COVID-19 syndrome)、post COVID-19 conditionと呼ばれている。

 

20212月に米国NIHCOVID-19感染後後遺症をpost-acute sequelae of SARS-CoV-2 infectionPASC)と呼ぶこと、ならびにその原因を特定し、予防と治療法を解明するためのプロジェクトの開始を発表した。ウイルス感染後に疲労が持続するウイルス感染後疲労症候群post viral fatigue syndrome (PVFS)があるが、PASCPVFSの類似病態と考えられる。

 

ライム病やデング熱では慢性症状が数ヶ月〜数年続く場合もあるが、新型コロナから回復した後(発症から平均 2 ヶ月後)も87.4%の患者が何らかの症状を訴えているとの報告もある。これらは筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(myalgic encephalomyeritis/chronic fatigue syndrome ; ME/CFS)の一亜型と考えられている。罹患後症状の発現には複合的な要因が関与していると考えられており、ウイルス感染による免疫バランスの異常やレニン・アンジオテンシン系の凝固能亢進と血栓症による血管損傷などが推測されている。

 

ME/CFSに対する治療法はPASCに対する治療法としても有効なのではないかと推測されているが、現時点ではME/CFSの治療法は確立されておらず、抗酸化療法(ビタミンC大量、CoQ10 など)、免疫賦活療法(漢方薬など)、向精神薬(SSRI、抗うつ薬、抗不安薬など)、精神療法(認知行動療法など)、運動療法、TMS治療(磁気による治療)などが行われている。迷走神経刺激法(vagus nerve stimulation ; VNS)は難治性てんかん, 難治性頭痛, うつ病などの治療法として行われているが、アメリカではME/CFSに対して鼻腔内に迷走神経刺激装置を入れる治療法が研究され、8週間程で従来の治療より20%以上の改善が認められたとの報告もある。

 

日本では慢性上咽頭炎やME/CFSに対する治療法として上咽頭擦過治療(EATEpipharyngeal abrasive therapy. 以降EATと略す.)の有用性が報告されている。EATの効果発現機序に関しては、塩化亜鉛の直接的な粘膜収斂、殺菌作用、抗炎症作用、瀉血による局所循環改善作用、迷走神経刺激作用などが考えられている。EATにはVNSと同様の作用機序が推察されているが、鼻内翼口蓋神経節刺激法(Intranasal Sphenopalatine Ganglion Stimulation : INSPGS)の効果との類似性も報告されている。上咽頭後壁、特に天蓋付近を擦過刺激した場合には翼口蓋神経支配領域が擦過刺激されるためにINSPGSによる副交感神経活動の増強と同様の刺激効果を発現しているのではないかと推測される。

 

PCR検体採取部位の上咽頭粘膜の急性炎症はCOVID-19において必発である。上咽頭粘膜下の鬱血は急性上咽頭炎の特徴の一つで、ウイルス消失後も鬱血が残存する状態がCOVID-19感染後後遺症の病態のひとつではないかと推測される。上咽頭の慢性的鬱血状態、リンパ流鬱滞状態が脳代謝産物の排出障害、脳機能障害を引き起こしている可能性がある。慢性上咽頭炎はEATで改善しうる病態であるため、慢性上咽頭炎が存在するPASC患者においてはEAT による瀉血効果、迷走神経刺激作用などが有効なのではないかと推測される。