病巣感染focal infectionについて
①病巣感染とはなんですか?
病巣感染は古くから、「身体のどこかに限局した慢性炎症があり、それ自体はほとんど無症状か、時に軽微な症状を呈するに過ぎないが、それが原因となって原病巣から直接関連がないと思われる遠隔の諸臓器に反応性の器質的あるいは機能的障害を起こす病像、いわゆる二次疾患を引き起こすこと」と定義されてきました。わかりやすく言うと、身体の一部に慢性の炎症があると、それ自体の症状は軽くても、これが原因となって他の臓器に病気を引き起こしてしまうということです。二次疾患を引き起こす原因としては、原病巣の病原菌が菌血症となって拡散することや、原病巣の細菌毒素などが障害を起こすこと、原病巣の原因菌が抗体産生を誘導してⅢ型アレルギーを起こすことなどが考えられております。病巣感染は口腔内に生じやすく、60%は扁桃、25%は歯と言われております。
②多い原因は何ですか? よくある症状は何ですか?
原病巣primary focusと遠隔臓器の二次疾患secondary focusの因果関係を立証することは難しいのですが、ヒポクラテスの時代から喉の病気と関節リウマチとの関連は知られておりました。原病巣としては、口蓋扁桃炎、鼻咽腔炎(上咽頭炎)、副鼻腔炎、中耳炎、齲歯、根尖病巣、歯周病、胆嚢炎、虫垂炎などが知られております。
扁桃病巣感染症の二次疾患としては掌蹠膿疱症、胸肋鎖骨過形成症およびIgA腎症などが知られております。他に、尋常性乾癬やアレルギー性紫斑病などの皮膚疾患、一部の慢性関節リウマチや非特異的関節痛などの骨関節疾患、持続する微熱やベーチェット病などの疾患も関連があると考えられております。歯周病と心疾患、動脈硬化症、糖尿病、早産や低体重児出産などとの関連もよく知られております。
③診断と治療について教えてください
病巣感染症の診断は治療的診断になることが多いです。原病巣を治療することによって二次疾患が改善すれば病巣感染が疑われます。扁桃の場合は、扁桃炎を反復してないかどうか、扁桃炎の炎症がひどくなった時に増悪する他の部位の病気はないかどうか、血液検査、尿検査、細菌検査、誘発試験や打消し試験などを行って総合的に判断します。
掌蹠膿疱症には歯科金属アレルギーが原因との報告もありますが、口蓋扁桃摘出術が有効であることも多数報告されております。胸肋鎖骨過形成症は約80%に掌蹠膿疱症を合併しますが、口蓋扁桃摘出術により改善することが報告されております。IgA腎症は糸球体腎炎の中でも頻度が高く、発症後20年ぐらいして腎透析になることがある疾患です。口蓋扁桃摘出術とステロイドパルス療法が有効であることが堀田医師により報告されております。鼻咽腔炎(上咽頭炎)の治療としてはBスポット療法や、鼻うがいが行われたり、口呼吸の改善などが指導されます。